2015年9月号
特集 - 地域のエネルギー資源を活用する
小水力発電で地域のエネルギー源を活用する
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岡本 卓也 Profile
(おかもと・たくや)

信州大学 人文学部 准教授



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池田 敏彦 Profile
(いけだ・としひこ)

信州大学 名誉教授



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天野 良彦 Profile
(あまの・よしひこ)

信州大学 工学部 教授・プロジェクト代表



長野県栄村で小さな水力発電所が動き出した。規模は小さいが、地域のエネルギー源を活用するための産学官連携モデルとして、この発電所プロジェクトの意義は大きい。

プロジェクトの背景

ここで紹介するプロジェクト「イノベーション政策に資する公共財としての水資源保全とエネルギー利用に関する研究」は、科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)の2012年度「科学技術イノベーション政策のための科学研究開発プログラム」に採択され、実施されている。プロジェクトの目的は、エネルギー源としての水資源の利活用の技術開発だけでなく、それを社会実装し、水資源の保全・活用についての社会的モデルを構築することも含まれている。

信州大学では、水資源の豊富な長野県の環境を活かし、工学部を中心に小水力発電システムの開発を行ってきた。しかし、社会技術として普及させるには幾つかの障壁があった。例えば、現行の水利権体制の下で新規の利用を導入することは、水利権の壁にぶつかって困難となることが多い。地下水に関しては、地盤沈下防止を主目的とした工業用水法やビル用水法などによる取水制限はされているものの、地下水の保全や利活用を目的とした国の法律はなく、条例などが存在している一部自治体を除けば、私的な利用がいくらでも可能である。このような現状を踏まえれば、水資源を活用した再生可能エネルギー導入の加速を可能とするためには、技術開発に加え、総合的・包括的な「水法」の整備や、水を利活用する地域の人々の意識づくり、合意形成のための社会技術の構築が必要だといえる。

ここでは、長野県栄村をフィールドに小水力発電を社会実装した事例を紹介する。

栄村の小水力発電所の概要

写真1 水車発電機

長野県栄村小赤沢地区に水車発電機(写真1)を設置した。地区の湧き水が小赤沢に流れ落ちる急峻(きゅうしゅん)な傾斜地の落差を利用して発電している。小水力発電所の概要を図1に示す。河川より取水した水が除塵スクリーンを通して水槽に蓄えられ、送水管を通してクロスフロー水車発電機に導かれる。落差は11.5m、流量は0.03m3/秒である。水車は傾斜地に作られた架台上に設置されている。水車のランナー(羽根車)は直径250mm、幅100mm、ブレード(羽根)枚数は20枚である。40極の永久磁石式同期発電機を用いている。

図1 小水力発電の概要

写真2 街路灯

パワーコンディショナーで直流から交流(AC)100Vに変換された電力は、栄村が管理する公衆トイレ(照明と便座暖房)と街路灯(写真2)に供給される。また、非常用電源として最大1kWhの充電池(公衆トイレ内に常備)に蓄えられる。

騒音対策として、防音小屋内に水車を収納した(写真3)。防音小屋なしの場合、架台上部で測定した騒音レベルは87dB(A)*1程度であったのに対して、防音小屋に収納後は約75dB(A)に低下した。しかし、架台下部での騒音レベルは変化しなかった。そこで、水車排水口に防音シートを巻いた塩化ビニル管を接続し、一部地中に埋設することなどにより、騒音対策を行った。

栄村小赤沢地区は日本でも有数な豪雪地帯である。冬期には雪により水路が埋没するため、除塵スクリーンの清掃には防雪屋根が必要である。日本エンヂニヤ株式会社の好意により、落ち葉などのゴミと水流の分離に優れた特殊な除塵スクリーンを用いた。

写真3 防音小屋

小水力発電所のメリット

3.11(東日本大震災)以来、再生可能エネルギーの利用を一層拡大することが急務とされている。水力は風力や太陽光に比べて稼働率が高いこと、また、風力に比べて流体の密度が大きいことから発電に有利である。流量と落差の積で水流の持つエネルギーは決まるが、小水力発電に適した河川や地形を特定することは容易ではない。

水車設置場所の選定には、栄村内8カ所の候補地を調査した。その結果、水が安定して得られる湧き水であること、小赤沢地区で消雪などに利用後、最後に集水されて小赤沢に流れ落ちる場所であること、発電した電力を公共性が高い公衆トイレや街路灯に活用できることから、水車の設置場所を小赤沢地区に決定した。

小水力発電について、一般的にいえることだが、発電規模が小さいほど経済性は良くない。建設単価を抑制することは無論だが、流量と落差のいろいろな組み合わせに対して、使用する水車や発電機、パワーコンディショナーのそれぞれの性能を高め、三者の最適な組み合わせが望まれる。

社会実装のプロセスと稼働後に浮かび上がった課題

プロジェクトチームでは、図2のようなプロセスを経て、上述の小水力発電を導入した。特徴的な点としては、社会的合意を得るために、区長会において地区の役員を対象とした説明会を行い(写真4)、その後、各区長が地域の住民を対象とした総会で同意を得るというプロセスを踏んでいることなどが挙げられるだろう。法的には水利権者と土地所有者の同意を得ることで、小水力発電の設置は可能であるが、コミュニティー電源としての利用を想定していることなどからも、このようなプロセスを経ている。その結果として、設置後に住民間で大きなトラブルが発生することもなく、受け入れられたといえるだろう。また、合意形成上のメリットがあるだけではなく、話し合いのプロセスの中で、地域での水利権に対する考え方など、さまざまな情報も収集できた点も有益だった。

また、社会実装という点においては、水利権の問題だけでなく、発電機の置かれる場所の違いによって関連する法律や許認可の手続き省庁が異なることなども明確になった。国土交通省が管轄する河川法では、2013年12月に小水力発電への水利権の利用について、許可制から登録制へと簡素化された。しかし、実際に小水力発電を設置する場合には、場所によって農林水産省や林野庁などが所管する法令にも抵触する可能性が指摘された。小水力発電の積極的な設置のためには、それら関連省庁を統合した組織が必要となるであろう。

発電機の設置後には、周囲の住民から騒音問題が提起されたこともあった。そのため、この問題が解決するまで、小水力発電システムの運転を停止した。騒音規制法は、規定の特定施設から出る騒音を規制する法律であり、本小水力発電システムは、騒音規制法は適用外である。しかし、問題は音量だけではなく、これまでは聞こえていなかった音域の音が聞こえ、騒音として認識されたようである。地域住民から提起された問題を抱えたままプロジェクトを進めることはできないため、対策を施し、問題の解決を図った。社会実装には法律の整備だけではなく、住民との関係作りも重要なことを示す一例といえるだろう。

図2 栄村での社会実装のプロセス

写真4 区長会での説明会

今後の取り組みと展望

本プロジェクトでは、長野県をフィールドとして水資源の循環を捉え、水資源の保全と利活用を進めることを目的に行ってきた。しかし、水源地の保全と利活用という観点からは、多くの類似地域において適用可能であると考えられる。

今後は、本プロジェクトで得られた、自治体や地域社会との利害調整や合意形成の知識などを社会技術として体系化することを目指している。さらには、トータルな水資源の保全と生態系に負荷を与えない水資源の利活用を進めるために、一般的に必要な水政策を明らかにするとともに、それを支えるための社会や法制度について提言を行いたいと考えている。

*1
dB(デシベル)は音圧レベルを表す。dB(A)は人間の聴覚を考慮して補正した値(A特性補正)であることを示す。