2015年10月号
特集 - 期待される大学発ベンチャー
株式会社創晶
創薬や生命科学の研究開発を結晶化技術で支援する
顔写真

安達 宏昭 Profile
(あだち・ひろあき)

株式会社創晶 代表取締役社長



顔写真

森 勇介 Profile
(もり・ゆうすけ)

大阪大学大学院工学研究科 教授



【大学発ベンチャー表彰2015】 文部科学大臣賞
従来と全く違う手法によるタンパク質の結晶化という独自技術を基に高難易度高価格帯というユニークなポジションを確保している。三菱商事との連携も有効に機能しており、今後の海外展開にも大いに期待する。

株式会社創晶は、若手研究者の異分野連携によって生まれたアイデアを事業化するために、大阪大学発ベンチャーとして、2005年7月に起業した。

レーザー照射による結晶核発生や溶液攪拌(かくはん)による結晶育成といった独創的な発想から生まれた技術を活用し、タンパク質や医薬候補化合物(有機低分子化合物)の結晶化受託を事業の柱としている。受託事業も結晶化が難しいものに特化したビジネスモデルを構築し、難題に日々挑戦することで技術力と経験値が向上した。これらの蓄積が当社の市場競争力を高めている。そのため、結晶が得られない場合でも、当社で結晶化できなければ仕方がないという顧客もいて、結晶化の判断基準としても利用いただいている。起業してから10年間で、国内の製薬メーカーや化学メーカー、食品メーカーなどを中心に、幅広い産業分野の企業から注文があり、受託実績は90社を超える。

顧客のニーズに応えて、X線結晶構造解析やタンパク質生産、結晶輸送「シバックス・クリスタル・ライン」など、受託サービスのラインナップも拡充してきた。これは、創薬支援企業同士の友好的な連携によるところが大きい。現在では、タンパク質生産から構造解析までを一括受注する「創薬支援ワンストップサービス」も手掛けている。最近の成果としては株式会社三和化学研究所と共同で、経口糖尿病治療薬のanagliptin(製品名はスイニー)とタンパク質DPP-4(Dipeptidyl Peptidase-4)の複合体結晶を作製し、X線結晶構造解析により薬効メカニズムを明らかにした。

ベンチャー起業は究極の能力活性化法

「社長は元気だ」という言葉を聞かれたことがあるのではないだろうか。実際、有名な起業家の大先輩たちは、とっても元気だったそうである。これはもともと元気な人が社長になっているという理解もできるが、筆者(森)は社長をするから元気になったと思うようになった。

比叡山延暦寺の千日回峰行(せんにちかいほうぎょう)は、7年かけて山の中を歩く修行法である。その中で、9日間、食事や水を断ち、不眠不休で不動真言を10万回唱え続けるという、普通の人間では到底できないことが実行される。また、高野山真言密教では50日断食の行がある。千日回峰行や50日断食といった荒行をする意義は一体どこにあるのかということに興味を抱き、実行者の話を伺ったり、書き物を読んでいるうちに、筆者なりの解釈ができた。それは、生死の境目に身を置くことで、個々の細胞が個体維持のために潜在能力を発揮するのではないか、という仮説である。例えば、50日断食をすると、感性が研ぎ澄まされ、線香の燃える音や灰の落ちる音が聞こえるそうである。また、山の中を歩いていると、動物としての本能が研ぎ澄まされ、普通の人間が歩けない獣道を素早く移動できるとともに、「一木一草の姿が日々違う(1日分だけ草が伸びている)こと」にさえ気付くそうである。

当社はリーマンショックの時に大赤字を出した。その時の「このまま赤字だったら倒産する」という恐怖・不安は、どう考えても理屈では消せなかった。結局、覚悟を決めて、目の前の事業を前向きに一所懸命するしか解決方法はなかった。その赤字を全て解消した今、難題に直面しても何とかなる、と気楽に挑戦している自分に気付いた。

このような経験から、筆者は、本当の危機感を味わえるベンチャー起業は、荒行にも匹敵する究極の能力活性化法だと思う。また、倒産という危機に遭遇したときに、「失敗したら怒られる」、「自分は能力がないのでどうせ失敗する」というマイナスイメージのトラウマがあったら、パニックになって右往左往し、必要なことを実行できず、諦めてしまって悪い方向に行ったと思う。起業前にカウンセリングを受けて、危機だけれど最大限努力すれば何とかやり切れると前向きになれた経験から、どんな状況でも諦めずに工夫を続けると、普段では思い付かなかった解決策がひらめくと実感した。

研究開発では、失敗が当たり前。ノーベル物理学賞を受賞された天野浩先生は、1,500回以上実験に失敗されても、全く諦めず、絶対にできると心から思っておられたそうだ。この前向きさが成功の秘訣であると考えるが、頭では理解できても、失敗が続いている状況で心から前向きになるのは容易ではない。そのようなとき、筆者はトラウマを解消するメンタルトレーニング**1が有効と実感している。

今後も前向きさを大切にしながら、結晶をコアとしたサービスや商品を通して社会貢献をしたい。

タンパク質結晶

タンパク質の結晶化スクリーニング実験

●参考文献

**1
森勇介.心理学的アプローチによるプロジェクト活性化.応用物理.2013,vol. 82,no. 10,p. 880-881.