2015年11月号
特集1 - 国際光年と日本の光科学・技術
国際協力でつくる30m望遠鏡TMT
顔写真

家 正則 Profile
(いえ・まさのり)

国立天文台 名誉教授/
TMT(Thirty Meter Telescope)日本代表/
TMT国際天文台評議員会 副議長


口径30mの主鏡を持つ30m望遠鏡(Thirty Meter Telescope、TMT)の建設が、米国ハワイ島のマウナケア山で始まろうとしている。TMTは、日本では最大の望遠鏡であるすばる望遠鏡(主鏡の口径8.2m)より、主鏡の口径が3.7倍も大きい。この巨大望遠鏡はどのようにしてつくられるのか、また何を観測しようとしているのか。家正則TMT日本代表に伺った。

すばる望遠鏡から30m望遠鏡へ

―口径8.2mのすばる望遠鏡ができたのは1999年と伺っています。今度、それを上回る30m望遠鏡(Thirty Meter Telescope、TMT、写真1)の建設が始まろうとしているそうですが、なぜこのような巨大な望遠鏡をつくるのかをお話しいただけますか。

 すばる望遠鏡のことからお話しした方が分かりやすいと思います。

 すばる望遠鏡の建設計画は、1984年に、次世代の大型望遠鏡の技術検討会というのを組織して始まりました。私の上司だった小平桂一先生がプロジェクトのリーダーで、私が主に技術的なところを担当しました。

 そのころ、国立天文台(当時は東京大学東京天文台)には岡山天体物理観測所に2mの望遠鏡*1がありました。当時、天体撮影は露出を終えたガラス乾板を暗室で現像するというやり方でした。海外でCCDカメラ*2が使われ始めたのに刺激され、科研費(科学研究費補助金)をもらって液体窒素で冷却するCCDカメラをつくり、2m望遠鏡に搭載しました。すると、ガラス乾板に比べて3等級ぐらい暗い天体が簡単に写ることが確認でき、もうガラス乾板の時代ではないなと思いました。

 しかし、感度の良いCCDカメラで撮っても、日本の空が明るいために、最先端の観測に太刀打ちできるような良いデータが取れないのです。それで、次の計画は、海外の条件の良い場所に日本ができる一番大きい望遠鏡をつくることだと考えました。その当時、世界最大だったパロマー天文台の望遠鏡が口径200インチ(約5m)だったので、1.5倍の300インチ(約7.5m)の望遠鏡を目標にして検討を始めました。そのうちに、米国とヨーロッパで8mの望遠鏡計画に予算が付き始めて日本は後追いになってしまいました。そこで7.5mをアップグレードして8.2mと一番大きい望遠鏡に計画を変えたのです。1990年に予算が認められ、1991年度からハワイに建設することになりました。

 1999年に望遠鏡が完成し、2002年には望遠鏡につける8台の観測装置が全て完成して安定な観測ができるようになりました。全てが完成して数年のうちにはやってみたいことに一応挑戦することができ、すばる望遠鏡の限界が見えてきました。そうすると欲張りな天文学者は、もっと大きい望遠鏡が欲しくなります。

 すばる望遠鏡は、1984年から検討を始めて、予算が付くまでに7年、建設に9年、完成まで合計で16年かかりました。その3年後には望遠鏡の性能を見極めましたので、約20年で望遠鏡の実力を実感したわけです。次の望遠鏡をつくろうと思ったら、また20年はかかるわけです。すばる望遠鏡と観測装置が全部動いた2002年に、次の計画を考えるのは決して早過ぎないと考え、数人の有志と、日本単独の30m望遠鏡というのを考え始めたのです。

写真1 超大型望遠鏡「TMT」1/150模型

―実際の30m望遠鏡は、日本単独ではなく、国際協力事業ですね。

 計画を立てた後、いろいろなメーカーに相談し、粗い見積もりを取って積み上げてみると、当たり前ですが、2,000億円を切れないのです。すばる望遠鏡は建設費が約400億円かかりました。その次のアルマ望遠鏡というチリにつくった電波望遠鏡も、やはり300億円ぐらいの計画です。国立天文台の実績から見て、数百億円の予算要求はあり得るけれども、2,000億円の要求は現実的ではありません。そこで、2005年ぐらいから、国際協力の可能性を探り始めたのです。

 当時、米国とヨーロッパで同じような次世代の超大型望遠鏡構想が三つありました*3。ところが米国やヨーロッパといえども、単独ではできなくて、国際協力を模索するという時代になっていました。では私たちはどこと組むかです。ヨーロッパの望遠鏡と、米国の望遠鏡の一つはチリに建設することがはっきりしていました。今回建設する30m望遠鏡(TMT)の計画は、もともとはカリフォルニア大学とカリフォルニア工科大学が考えていた計画です。これはチリにするか、ハワイにするか、迷っていました。三つともチリに行ってしまうと、北半球から北の宇宙の観測ができなくなってしまいます。

―それでハワイにこだわったわけですね。

 私たちはハワイにある、すばる望遠鏡を活かしたかったのです。すばる望遠鏡は広視野のカメラを持っていて、広い空を探して貴重な天体を見つけるという機能が優れています。この機能を活かしながら、次の天文学を進めるためには、日本が参加する次世代の望遠鏡はハワイでないといけません。そこで、TMT計画を練っていた米国とカナダに、もしTMTをチリでなくハワイにつくるという決断をするなら、日本はこれに参加するべく予算要求しますという提案をしたのです。

 米国やカナダも予算が足りないし、すばる望遠鏡の実績がある日本が参加してくれると心強いということで、2009年に、ハワイに建設することが決まりました。その後、中国とインドも加わって、日本、米国、カナダ、中国、インドの5カ国の国際協力事業になりました。

 2014年5月に、合意書を交わして、米国にTMT国際天文台という有限責任会社を法人登録しました。そこが責任をもって各国の役割、義務と権利、そしてスケジュールを決めます。日本は最初に予算を付けて参加したメンバーなので、リーダーシップを発揮しています。

 TMT国際天文台評議員会が、全ての重要事項を決めます。各国から3人ずつ評議員が出て、合議して重要事項を決定します。議長はカリフォルニア大学サンタバーバラ校の学長のヘンリー・ヤンさんで、私が副議長に選ばれました。

すばる望遠鏡と連携させたTMTの運用

―すばる望遠鏡ではいろいろな成果が得られたと思いますが、TMTではどんなことを観測するのですか。

 すばる望遠鏡は、完成当時、世界最大級の望遠鏡で、いろいろな工夫をしました。例えば、空気の揺らぎが発生しないようにドームを昼間冷却して、鏡からかげろうが立たないようにしました。姿勢が変わっても鏡が変形しないように、コンピューターで制御されたアクチュエーターでいつも鏡の形を保つ技術を入れています。さらに私が科研費をもらってつくった補償光学装置があります。私たちはこれを「賢い眼鏡」と呼んでいます。これを付けると、すばるの「視力(解像度)」が10倍良くなって、宇宙空間にあるハッブル宇宙望遠鏡よりも2倍ほど視力が良くなります。そういう機能を持つすばる望遠鏡を使って、日本の研究者だけでなく、世界中の天文学者が、さまざまな成果を挙げています。

 その中の一つが、宇宙の果ての銀河を探すという研究です。2006年に私たちが発見した銀河は約129億光年*4かなたのもので、発見当時は世界一遠い銀河でした。「ネイチャー」誌で発表したこの記録は、その後5年間破られなかったのです。そういう発見を通して、私たちのグループは、いつごろ銀河がたくさん生まれたのかを探りました。この時期を「宇宙の夜明け」と呼びますが、それが起こったのが129億年ぐらい前だということを発見したのです。この研究で私も日本学士院賞や紫綬褒章など、いろいろな賞をいただきました。私の後輩たちも、その流れで、すばる望遠鏡を使って世界的な研究をしています。TMTでは、これをさらに伸ばしていきたいのです。

 私たちがすばる望遠鏡で使ったのは、主焦点カメラという、広い空を一度に撮影できる広角カメラで、これは浜松ホトニクスがつくった特殊なCCDを使っています。これがあったおかげで、私たちも世界記録をつくれたのです。その後、その機能をさらに10倍にしたハイパー・シュプリーム・カム(Hyper Suprime-Cam)というデジタルカメラがつくられました。今はそれを使って宇宙を観察しています。すばる望遠鏡を使って見つけた遠い天体をTMTで観測することで、最初の星や銀河を見つけ、また日本人が研究のリーダーシップをとるというのが戦略です。

 もう一つは太陽系以外の惑星(系外惑星)の観測です。太陽系以外にも、惑星を持つ恒星がたくさんあることが分かっています。実際、太陽系の近くにある恒星の周りを回っている系外惑星の写真が、すばる望遠鏡を使って、いくつか撮れています。私たちのつくった補償光学装置で視力が良くなったからです。

 系外惑星は、初めは木星クラスの大きな惑星しか見つからなかったのですが、最近は地球ぐらいのサイズの惑星もどんどん見つかっています。見つかった惑星の数は2,000個ぐらいになっています。TMTができると、そういう惑星の中で、地球に似た環境を持つものや、生命活動があるかもしれないものを探し出せる可能性があります。

 地球の大気中には多量の酸素があります。普通の惑星の大気中には酸素はあまりないのですが、もしもTMTで系外惑星の大気の成分分析をして、そこに酸素がたくさんあるということが証明できると、どんな生物がいるかは分かりませんが、生命活動があるかもしれないという状況証拠になるわけです。そういう観測が10年後にはできるのです。

国際分担してつくるTMT

―TMTは各国がどのような分担でつくるのですか。

 望遠鏡本体は、すばる望遠鏡の実績がある三菱電機が設計してつくります。直径30mの反射鏡は、さすがに1枚のガラスではつくれないので、492枚の部分鏡を敷きつめて1枚にします。部分鏡はそれぞれが厚さ4.5cm、対角1.44mの六角形状です。材料は膨張率がほぼゼロのクリアセラム*5という特殊ガラスを使います。これは相模原市にあるオハラ*6というガラス会社がつくります。もう100枚以上つくっています。それを磨くのは、キヤノンです。日本で全部磨けなくはないのですが、日本、米国、中国、インドで分担して磨く予定になっています。

 補償光学装置は、日本にも経験があるのですが、カナダが分担してつくります。すばる望遠鏡のレーザーガイド星補償光学装置は、世界中の技術を集めてつくりました。例えば、補償に使う可変形鏡は、われわれが設計して、フランスの会社につくらせました。装置用のレーザーは、理化学研究所と共同開発しましたが、レーザーをすばる望遠鏡から打ち出すための送信望遠鏡はイタリアの会社につくらせました。TMTでは、これをさらに発展させた補償光学装置をつくります。TMTの補償光学装置で使うレーザーは、中国が開発してつくる予定になっています。

 各国の役割分担については、一応合意していますが、本当にできるかどうかを確認した後、ではそれでやってください、というお墨付きを与えていきます。そのための審査会議が毎年多数あります。

 それぞれの国の技術でモノづくりをして持ち寄ろうという計画ですが、これが「言うは易く行うは難し」です。約束通りの性能のものが約束通りの期日に来ないと、システムとしては完成しないからです。これを円滑に進めるためには国際的なマネージメントが大事になってきます。

 科学者としては、望遠鏡建設は夢のある仕事ですが、実際に計画を走らせるというのは、その点で大変です。

―TMTの場合は、主鏡も大きいですが、副鏡でも直径3mほどあります。

 主鏡と副鏡に加えて第3鏡という平面鏡もあります。主鏡で集めた光を、副鏡で折り返し、第3鏡で望遠鏡の左右にあるいろいろな観測装置に導きます。

 副鏡は米国が、第3鏡は中国がつくります。

―主鏡を支えるシステムは、すばる望遠鏡のものを発展させたものですか。

 だいぶ違います。すばる望遠鏡は、20トンの一枚鏡を、261本のアクチュエーターで1グラムの精度で支えて、鏡の形を常時コントロールしました。さすがに30mの一枚鏡はつくることができないので、TMTは部分鏡を492枚敷き詰めて主鏡を構成します。この方式は、カリフォルニア大学とカリフォルニア工科大学がつくったケック望遠鏡の技術を拡張したものです。やはりセンサーとアクチュエーターが必要です。基本的な設計は、米国でもう済ませていて、インドがアクチュエーターとセンサーを量産して、それを組み込んだ部分鏡の支持機構というのをつくります。その支持機構に日本、米国、中国、インドで磨いた鏡をそれぞれ載せます。最後にハワイの山頂に持って行ったら、みんな少し違ったというのでは困りますので、同じ規格でできるようにマネージメントしなければなりません。その辺もなかなか大変です。

―観測装置はどこでどんなものをつくるのですか。

 TMTに広い視野をもつCCDカメラを付けることは、今のところ考えられていません。すばる望遠鏡がその役割を果たします。すばる望遠鏡で見つけた重要な暗い天体をTMTで観測します。TMTはピンポイントで観測するようになります(参照)。

 観測装置の提案は10ぐらいあるのですが、最初から10台はつくれないので、今は優先度の高い3台をつくるための準備を始めています。日本はそのうちの2台の観測装置の設計、製作、一部を担当します。若手も含めて、すばる望遠鏡の観測装置をつくった経験のあるグループが参加します。

表 すばる望遠鏡と30m望遠鏡(TMT)の比較

―あらゆる部品を集めつくるのは、本当に大変そうですね。

 アルマ望遠鏡という電波望遠鏡プロジェクトでは、66台のアンテナを参加各国がつくりました。日本が幾つ、米国が幾つ、ヨーロッパが幾つとつくって、それをチリに運びます。実際の観測のときには、それを一緒に動かしてデータを取ります。だから、例えば、ヨーロッパの納期が遅れると使える望遠鏡の数が減るのですけれども、それでも観測はできるのです。TMTプロジェクトが難しいのは、重要な構成要素を各国で分担していることです。例えば第3鏡ができないと、望遠鏡の集めた光を観測装置に導けません。ですから、全てのパートナーが約束通りに納品できないと、みんなが待ちぼうけになる。

 また、それぞれの国の予算を使ってやりますので、それぞれでタイミングよく予算を措置してくれないと、予算リミットで遅れるということもあるわけです。幸い日本は一番早く予算を付けてもらっていますが、ほかの国が足踏みしていると、状況が変わる可能性もあります。そういう意味でマネージメントが非常に重要になります。

TMT技術の産業への応用

―新しい望遠鏡の技術的課題はあるのでしょうか。

 既に8m級の望遠鏡を世界中でつくっていますので、基本的な技術はもうあると思っています。ただ、8m望遠鏡と30m望遠鏡だとスケールが違います。例えば、492枚の鏡を制御するのに、たくさんのセンサーやアクチュエーターを使います。制御軸数でいうと1万2000カ所を、コンピューターを使って制御することになりますので、なかなかチャレンジングです。原理的にはできるはずなのですが、実装したときに予想しなかったことが起こらないとは限りません。その辺も難しいところです。

―TMTのように大きなものをつくるときには、産業界の力も重要なのではないでしょうか。

 すばる望遠鏡の経験からしても、TMTのように大きなものを設計してつくる際には、全てのところに目を配りながら、経験のあるエンジニアを大勢統括して、見落としがないようにしていく必要があります。そういうチームとしての技術力は、日本は非常に優れていると思います。例えば他国のメーカーと比べると、そういう面では日本の技術力が光っていると思います。

―TMTで使われる技術は、産業に応用できるのでしょうか。

 天文学者は、天体からの微かな信号を捉えるため、普段のニーズからは出てこないようなむちゃな要求を技術者に突き付けます。しかし、技術開発して実現したときに、初めはこんなもの何の役に立つか分からないという部分があっても、できてしまうと「あっ、これはこっちに使ったらいい」というスピンオフが結構あるのです。

 例えば、補償光学技術です。20世紀は電子を制御する技術が主でしたが、補償光学技術は光そのものをいじってしまう技術です。こういう技術の応用というのが、いろいろと見えてきています。例えば顕微鏡にその技術を応用するとかです。

 浜松ホトニクスの役員だった方が、私が補償光学装置を開発していたころに来られて、「家先生の装置に必要なら、うちの技術員に無理難題を吹っ掛けてください」とおっしゃるのです。「無理難題を吹っ掛けられると、みんなやる気を出して、それを実現する。そこからはきっとスピンオフがあります」とおっしゃったのです。当時必要だった開発課題を他のメーカーで話すと、技術者はみんな面白がってくれるのですが、経営のレベルでなかなか許可が出ないのです。トップがどういう意識を持っているかが大事だと思いました。

 CCDを並べたハイパー・シュプリーム・カムも同じです。天文で使うための特殊な大型CCDで、ほかに応用があるかどうか分からなかったのですが、これは役立つということで、いろいろな応用の成果が出ています。

始まるTMT建設

―TMTの建設工事はもう始まったのですか。

 全ての建設許可は、2014年に得ています。地元の建設会社と契約して今年の3月末から建設地までの道路をつくり始めようとしたのですが、反対派の人たちが道路を封鎖してしまいました。無用な混乱を避けるため、しばらく工事を自粛しています。

 ハワイ島は、もともとはポリネシア系の人たちの住んでいた島ですが、19世紀に米国に組み入れられました。ポリネシア系の人たちの中には、神聖な山の頂上に、自分たちに断りなく白人が天文台をつくってきたということに対して、自分たちの主権を奪回したいという民族意識が起こっています。TMTは目立つものですから、TMTをターゲットにして反対運動が起こっています。ハワイ州知事やハワイ当局は、国際協力事業のTMT計画は、科学でのハワイのステータスを上げる効果があるだけでなく、やはり1,500億円のプロジェクトなので、地元への投資効果や雇用効果などがあり、多くの住民は大歓迎です。合法的な反対活動ならいいのですが、道路封鎖とか、非合法的な反対運動なのですね。ハワイ州知事は、非合法な反対運動は排除すると声明を発表していて、われわれとしては、州当局とも協議しつつ、平穏な工事再開のタイミングを見計らっているところです。

―建設予定地のマウナケア山頂には、すばる望遠鏡以外にもたくさんの望遠鏡がありますね。

 山頂には現在13台の望遠鏡があります。山頂は法律的にはハワイ州の土地で、その一画をハワイ州が天文観測などの科学のためにハワイ大学に貸していて、ハワイ大学が各国の天文台にまた貸しをしているのです。すばる望遠鏡もハワイ大学と土地の貸借協定を結んで、建設する場所を借りました。TMTも同じことをしています。

 古い望遠鏡は全部撤去して、更地に戻し、神聖な山にお返しするということになっていますが、まだ撤去された望遠鏡がなくて、それも反対派が文句を言っているところです。ハワイ州知事も、TMTが完成するまでには、3〜4台の望遠鏡を撤去してくださいといっています。2台の撤去方針は決まりましたが、続いてどの望遠鏡を撤去するのかは、各天文台の台長が集まったマウナケア天文台長会議でプランをつくっているところです。

TMTがもたらしてくれるもの

―TMTは科学的なデータ以外にどんなものをもたらしてくれるのでしょうか。

 私が天文学の世界へ入って40年ぐらいです。この間に、ガラス乾板を現像する時代からCCDのデジタルカメラに、2mの望遠鏡が8mのすばる望遠鏡になって、今度は30m望遠鏡(TMT)ができるわけですよね。これで、人類の視力がどれぐらい上がったかというと、ガラス乾板の現像で見える限界は21等星だったのが、TMTで補償光学装置が使えると、32等星が見えることになります。32等星といってもイメージが湧かないと思いますが、新月の月面でゲンジボタルを1匹光らせ、それを地球から観測すると32等星くらいになります。それが見えるほどの感度なのです。

 そんな感度で宇宙を見た人はいません。この40年間で宇宙の果てや系外惑星も見えてきて、多分、次は、宇宙で生命を宿しているのは地球だけではないということが、10年後、15年後には証明できると思うのです。それをきっかけに人類の宇宙観が変わってくれないかなと思います。

 領土問題で争うなんていう、ちっぽけな話をしていたのでは、この人類文明が一体あと何年持つのでしょうか。環境破壊したり、戦争したりして、あと百年も、千年も持つでしょうか。運良く1万年持ったとしても、138億年の宇宙の歴史から見ると、1万年なんて一瞬なわけです。ほかに成熟した宇宙文明があっても、遭遇するチャンスなどありません。そういう視点で、私たちは人類の将来を考えていくべきだと思います。

(取材・構成:編集部 田井宏和)

*1
口径188cm望遠鏡

*2
charge coupled device(電荷結合素子)の略。撮像素子の一種。

*3
TMT(Thirty Meter Telescope)計画(口径30m)、E-ELT(European Extremely Large Telescope)計画(口径39m)、GMT(Giant Magellan Telescope)計画(口径22m)の三つ。

*4
128億8000万光年

*5
CLEARCERAM-Z

*6
www.ohara-inc.co.jp/