2016年8月号
特集1 - イノベーション機能の強化へ 共同利用・共同研究拠点の在り方
「山形モデル」で有機材料システムの世界的拠点化に挑戦
顔写真

高橋 辰宏 Profile
(たかはし・たつひろ)

山形大学 教授
理事・工学部長 特別補佐
有機材料システム研究推進本部
管理運営・国際連携担当

 
 

山形大学(以下「本学」)の有機材料システム研究推進本部は、新融合分野の「有機材料システム」で、基礎先端の強化から応用開発、事業化推進までを実施することを特徴とし、本学学長を本部長とする「6センター・1実証施設」からなる統括融合組織である。本稿では、本学の戦略や有機材料システム研究推進本部の特色と実績、新設の「大学院有機材料システム研究科」と教育・研究の一体的国際拠点化や国際展開について紹介する。

有機材料システム研究と教育改革


有機材料システムとは、フレキシブル印刷エレクトロニクス、蓄電デバイス、高分子成形加工、ゲル、3Dプリンター、バイオマテリアル、有機ICT(情報通信技術)デザインシステムなどを含む、ハードとソフトなどの異分野の融合と、システム化に関する基盤技術の多様性を追求した新融合分野である。この特色ある有機材料システム研究を活用し、教育改革の目玉としてこの新融合分野の創成と開拓を行い、グローバル力も兼ね備えた人材育成を実践するため、ことし4月「大学院有機材料システム研究科」を開設した**1

有機材料システム分野では、戦略的人材招聘(しょうへい)や、集積と独自のYU-COE支援(山形大学先進的研究拠点)などで、基礎先端や基盤技術の徹底強化を図ってきた。そのかいあってか、2009~14年で共同研究費受け入れ額の伸び率が高まり1位を維持してきた(表1)。

表1 基礎先端・基盤技術と共同研究費に関する近年の実績

選択と集中戦略で独自の「山形モデル」を構築


本学は2009年より、当時の結城章夫学長の下、小田公彦氏(当時独立行政法人国立高等専門学校機構理事)をプログラムオフィサーに迎え、図1のようなマネージメント体制を整備し、世界的拠点化を推進してきた。有機材料システム分野で基礎先端から事業化推進までの卓越した多様な人材を戦略的に招聘し、その人材を核に、外部資金の獲得、施設や設備、人員の整備などで、基礎先端から事業化まで組織的に推進してきた。この取り組みが「山形モデル」である。時任静士卓越研究教授(フレキシブル印刷エレクトロニクス)、吉武秀哉教授(蓄電デバイス)、伊藤浩志教授(高分子微細成形加工)、古川英光教授(ゲル・3Dプリンター)といった各分野のエキスパートを招聘し、その融合効果で事業推進の組織力を発揮できたといえる。

図1 有機材料システム研究推進本部組織と教育・研究一体化

教育・研究の一体的な国際拠点


本学では、高分子・有機材料を中核に、分野を横断した教員からなる「大学院有機材料システム研究科」(2016年4月設置)と「有機材料システム研究推進本部」(2015年3月設置)で、実践教育と先端研究との相乗効果のある国際拠点を築いてきた(図2)。博士課程リーディングプログラムのフロンティア有機材料システム創成フレックス大学院では、この拠点を活用してグローバルリーダー工学博士を育成し、グローバル企業から採用のオファーを頂くなど、学生とプログラムの評価が高く、中間審査で最高の評価を受け実績を挙げつつある。現在、飯塚博米沢キャンパス長の下に、7施設・約500人の体制で、世界最高移動度N型半導体合成、世界初オール印刷型集積回路作製、フレキシブル印刷エレクトロニクスでのベンチャー企業創出などの成果を挙げることができた。また、プリンタブルエレクトロニクス2013では「プリンタブルエレクトロニクス大賞」を受賞した。

図2 新融合分野「有機材料システム」で世界的拠点化

応用開発で事業化推進


「山形モデル」は、国(文部科学省・経済産業省)、地域(山形県・米沢市・飯豊町)、産業、大学、研究機関、金融などからの支援や連携をもとに、図3の7施設で展開している。

図3 有機材料システム研究推進本部施設概要

 

本学がリーダーシップを発揮し、国内外の原料メーカーからデバイス・プロセス、装置、評価、製品などのメーカーまでの企業などを垂直的に連携させて、基礎先端技術から事業化推進までのイノベーションを先導するのが「山形モデル」の特徴である。また世界で類のないスマート未来ハウスでは、社会実装に向けた開発試作品の実証試験も行い、蓄電デバイス開発研究センターで機能性セパレータの実証実験まで行っている。

基礎先端研究から山形大学発ベンチャー「フューチャーインク」誕生


銀ナノ粒子インクの表面エネルギー制御というブレークスルーにより、従来では不可能だった線幅10μm(マイクロメートル)よりも微細な配線が可能となり、TFT(薄膜トランジスター)でセンサーを駆動することができた。科学技術振興機構(JST)のSTART(大学発新産業創出プログラム)の支援もあり、プリンテッドエレクトロニクスのベンチャー企業「株式会社フューチャーインク」がこの4月に誕生し*1、基礎先端研究の概念検証が可能となった。近年の開発試作品例を図4に示す。

また10年先の社会実装に向けて、フロンティア有機システムイノベーション拠点としてJSTのセンター・オブ・イノベーション(COI)プログラムも展開中である。

図4 有機材料システム分野での開発試作品

国際共同研究・連携を積極的に展開


本学では、海外機関とも積極的に連携している。

有機エレクトロニクスで世界屈指といわれる、ドイツの有機エレクトロニクス産業クラスター(Organic Electronics Saxony)は、本学を中核とするオールジャパン有機エレクトロニクスと国際連携する形で、ドイツ・クラスター国際化プログラムに採択された。山形大学フレキシブル有機エレクトロニクス実用化基盤技術コンソーシアム(YU-FOC)**2の技術と、欧州最大級の応用研究機関、フラウンホーファー研究機構の傘下研究所である「Fraunhofer FEP」の技術で共同製品試作を行っている(図5)。

この国際共同研究や連携には、博士課程リーディングプログラムで研究力とグローバル力を向上させたい有機材料システム分野の大学院生や、意欲と能力ある日本の若者が参加している。そして、海外留学に自ら一歩を踏み出す気運を醸成するために、2013年10月より文部科学省が実施する留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」を活用して、国際的地域間中小企業連携において、地方から日本を活性化させたい意欲的学生が参画している。これら世界的拠点化を、ことし5月、G7茨城・つくば科学技術大臣会合にてアピールし、またフレキシブル・プリンテッド・エレクトロニクス国際会議(ICFPE2016)を、ことし9月に本学で開催する予定だ。

高分子・有機材料の基礎先端研究のブレークスルーを基盤に、産業化までを先導していく伝統と矜持(きょうじ)を持ち、新融合分野「有機材料システム」創成と人材育成にチャレンジし続けていく。

図5 基礎研究から事業推進まで国際連携を積極展開

●参考文献

**1
小田公彦、大場好弘、高橋辰宏.「山形モデル」の特色~有機材料システム分野で世界的拠点化~.産学連携学.2015,vol. 12,no. 1,p. 17-24.

**2
鵜飼育弘.“「ここまで大学でやるのか」、山形大の有機デバイス開発”.日経テクノロジー online.
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/event/15/011500025/021600010/(accessed2016-08-15).